Wotazumi道/追悼ミルフォード・グレイヴスを寄稿しました@JazzTokyo

IMPROVISATION

先日惜しまれつつも亡くなった「史上最高のドラマー」のひとりであるミルフォード・グレイブス氏について、OddRoomingのMaster Wotazumiが「JazzTokyo」というサイトに追悼の文章を寄稿いたしましたのでご紹介させていただきます。Roomin’の拙い記憶では「ミルフォード・グレイブス」というとダンス白州での田中泯氏との山の舞台でのセッションをみたことはありませんが話には聞いております。私はあまり音楽のことは詳しくないのですが、やはりダンスとか即興とかの周辺にあるミュージシャンというものにはどうしても親近性を感じてしまいますし、そういう音楽家と関わっていけたらなと思っています。


追悼 ミルフォード・グレイヴス

©KenYa Kawaguchi

最初にミルフォードさんと、ニューヨークで会話した時、彼が自分を認識していたことに、少なからず驚いた。確かに、その少し前の、ストーンでの彼のライヴに、日本人が二人だけいた、ということを、土取利行さんから後に聞いたのだが。彼は日本、特に白州での思い出を、とても深く留めており、その話をやめなかった。自分が彼を知ったのは、間章氏の本を読んだからである、と伝えると、彼のテンションは高まり、間章氏の批判をはじめた。彼は続ける、ある観客が彼のドラムセットの運搬を手伝おうと、彼の機材に手をかけた瞬間、間章氏は、彼の機材に触れるんじゃない、と強い口調で、その観客を怒鳴りつけた、と言うのだ。自分は少し考えた、そして、彼は、決定的なことを言った。間章氏は、全く心が閉ざされた人間だった、と。自分は知っていた、間章氏がその文章の中で、ミルフォードさんは、最後のフリー・ジャズ・ミュージシャンとして、彼自身の強さの中で孤立していくだろう、と呟いていたことを。間章氏の眼はもう、ハン・ベニングさんの方へと、向かおうとしていた。間章氏は、あと1年長く生きれば、絶対にミルフォードさんへの批判を展開したと、自分は断言できる。そして、ミルフォードさんと、海童道祖との確執のことも知っていた。ミルフォードさんは、海童道祖との対話の中で、海童道の音楽は、スピリチュアルなものである、と語ったと伝えられている。道祖は、通訳を通じてそれを聞いたとたんに、海童道は、スピリチュアルなものとは全く違う、ミルフォードさんは何も分かっていない、と強い不快感を表明したと。このことを、道祖は最後まで強調していたと、自分は聞いている。ミルフォードさんも、期待したものを得られなかった、との想いを残していた。自分はその場にいることが出来なかったので、何があったのかは、まるでわからない。しかし、多くの人が語るように、間章氏の夭折は、許し難いものであった。ミルフォードさんは、その後も、ニューヨークで大きな影響を与え続けた。横道に逸れるが、自分が彼の訃報を知ったのは、ニューヨークの、ヴィーガンのコミュニティからの配信だった。彼はクイーンズ区ジャマイカの有名人だったが、近隣の住人は、彼が著名なミュージシャンだとは、知らなかった。彼はただ、自宅に薬草を育て、漢方の研究をしている変わった人物と思われていた。彼が教鞭を取った、ベニントン大学の学生の中には、本人自身がドラムを叩くばかりで、本人の思想ばかりを語る彼を、よく思わない人も多くいた。自分の夢想の一方で、いつの間にか、彼は他の観客から質問を受けて、答えていたが、いきなり自分の方を振り返り、また先程の話の続きをはじめ、しばらくずっと自分を見つめた。自分はこう答えた。確かに、ミルフォードさんの言うように、間章氏は、あなたのようには、心が開かれた人間ではなかった、かもしれません、ですが彼は彼のやり方で、心が開かれていったのだと思います、いづれにせよ、間章氏は音楽の世界を去っていたでしょう。彼は大きく、うん、と言葉と共に頷いた。自分は、ジェイミー・ミューアさんのことを、思い出していた。ミルフォードさんから、強い影響を受け、未だにロバート・フリップさんに、呪詛のように、影響を与え続けるミューアさんは、音楽をやめ、修行の道を歩んでいる。彼に、もし、もう一度会えれば、ミューアさんのことを聞きたかった。ミルフォードさんは、いつも若者に憧れている、いつでも若者が好きだ、と語っていた。そして彼は、海童道祖は、100年で最高の尺八奏者だったよ、と語った。自分は、200年かな、と答えた。ミルフォードさんは、輝く瞳とともに、武道家式の合掌をしたので、自分も武道家式の挨拶で答えた。日本に帰った時、海童道の我が師に、ミルフォードさんの言葉を伝えると、老師匠は、そうかあ、ついに通じたんだなあ、と、にこやかに、どこかへ眼をやりながら、呟いた。

→Master Wotazumiの記事「追悼 ミルフォード・グレイヴス」はこちら(JazzTokyo)


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