憧れのひと/素踊りから土方巽の朗読まで最高峰の身体表現者・伴戸千雅子という素朴な天才

BUTOH

現存する身体表現者の中で私が特に憧れている伴戸千雅子さんという方がいらっしゃいます。元来、私は踊り始めてこのかた「(現存する)憧れの人」という存在がいない状態で今までやってきたのですが、伴戸さんが舞踏靑龍會のアトリエ公演に毎年のようにいらして素晴らしい舞台をみせてくれるたびに、本当に毎回感心しっきりで回を重ねるたびに「憧れ度」が増していまや公言したいレベルとなってしまいました。伴戸千雅子氏は大阪在住で京都・大阪を中心に活動を重ねている振付家・ダンサーです。私あまり関西の状況のことを知らなかったのですが京都と大阪はとても近くて活動域としてほぼ同じにあるようですね。

初めて伴戸さんに会った時は飾り気のない自然体の在りようだなという印象で一番最初にみたおどりも正直あまり覚えていないのですが、何らかのおどりへの「贖罪」じゃないですけど、「今まであたり前にこれでやってきた」というようなものを感じて勝手に親近性を感じていたのかもしれません。最初に身体表現者として決定的にすごいと思った作品は朗読と振り付けを組み合わせたソロの作品でした。終始脱力の雰囲気を通しながら綿密に振り付けされた構成であり、さらにその振り付けを超えて脱力するその舞台をみて、いったいどんなことを考えたらこのような舞台になるのだろうかと恐れいった気持ちでいっぱいだったことを覚えています。私は滅多に人の舞台を手放しで褒めることはないのですが、この時は何だか今までの自分の持っている「おどり」の範囲を超えて、パラレルワールドというか異次元の範疇に思えて、興奮状態で伴戸さんに称賛を伝えたと思います。

2020年11月アトリエ公演(photo by Yoshio)

その後、私が初めて京都で袋坂ヤスオ宗家の非風ケツ能会に参加させていただいた際に伴戸さんが観に来てくれてそこでようやく私のおどりをみていただけたんじゃないかなと思うのですが、ほんとにまだまだというかお恥ずかしい限りでしたね。その時点でもそういう思いだったのにさらに私の中で伴戸さんのすごさを決定づける舞台を目撃してしまいました。それは前々回2019年に舞踏靑龍會のアトリエ公演にいらっしゃった時の作品…。なんと伴戸さんはその時舞踏家の中ではほとんど禁断とも言える(?)土方巽の文章の朗読を演じたのです。さらに驚いたことにそれが信じられないくらいにどうしようもない切なさがにじみ出てほぼ完璧とも言える世界観だったのです。実はその春に京都国際舞踏フェスティバルでお会いした際に、彼女が土方巽のことをモチーフにしていていろいろ調べているといった話は聞いていましたから、その時からずっと構想や稽古を重ねられたのだと思います。東京での活動があった私にとって、土方巽に手を出すことは炎上必至で、はっきりいって禁断とも言える領域という先入観がどうしてもあったのです。でも伴戸さんの演じたその土方の世界は多分土方巽のことを全く知らない人にとっても十分に楽しめるものであったと思うし、土方の題材ではあるがそこには伴戸さんの世界がこじんまりと、しかし深くできていたのです。いったいどんな発想をもって、どんな稽古をして、この世界へ至るのか?本当に、本当に、本当に感服いたしました。この作品を見たあと思わず私は伴戸さんに振り付けてほしいせめて稽古をしたいと申し出た次第です。

2020年11月アトリエ公演(photo by Yoshio)かっこいい足

その後2020年以降はご存知の通りなかなか往来のできない状況となっておりますが、2020年11月のアトリエ公演にはいらしてくれて、力強いおどりをみせてくれました。構成や振り付けの妙だけでなく実は素材型でもあると私は密かに思っておりますが、(からだのフォルムとかすごくかっこいい)毎回違うことをされている点には特に感銘いたします。然るべき時が来たら是非何かしらご一緒させていただき彼女の作品づくりの「空気」を感じたいと思っている次第です。

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